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――彼は医者である。免状もある。開業もした。患者もどうにかつきはじめた。職業的には立派に医者としての条件を具へつゝある。だが、河原町ではそんなことは通用しないのだ。何か別のものが、職業上の条件以上のものがここでは必要だつた。
かまわないから開けてみろというので、男二、三人が協力して無理に第一の戸をこじ開けると、内には誰もいなかった。第二の戸をあけた結果も同様であった。その騒ぎを聞きつけて、他の客もあつまって来た。宿の者も出て来た。
「相手は誰です?こゝの御隠居ですかい」
房一は近い往診の帰りに河の石畳みの土手をつたつて歩いていると、広い河原を前にし土手沿ひの小高い畑地の端に立つて、特長のあるごつごつした頭骨を露あらはにし、両手を帯の前にはさんだまゝ、殆ど反そり身に立つたまゝあたりを眺めている男を見た。
「あの人は来まいて」
「へえ。ちよつとばかし――」
「いや、そんなこたあ、――そんなこたあしませんよ」
「いや、そのうち。――ぜひ御相談があるんですが。――そのうち、一度来ていたゞいて。いや、私の方から出かけませう。や、又――」
「あんたは鮒をたべなさるかね」
すると、間もなく診察室の方から急ぎ足で出て来た房一は、道平を見るなり、
と、その稍落ちつきのない女らしい黒瞳くろめがちな眼を道平に向けた。
今泉にはやつと徳次の考へていることが判つたので、熱心に説明した。
答へながら、他人ごとのやうにずばずば何でも話してしまふ喜作の飾り気のなさに、驚いていた。